近年、建設業界では人手不足や生産性向上の課題を背景に、さまざまなデジタル技術の導入が進められています。
その中でも注目されているのが「建設用3Dプリンター」です。
政府も建設DXの推進を進めており、研究や実証実験が各地で行われています。特に、建設資材として使用されるモルタルやコンクリートなどの新しい施工方法については、制度や基準の整備が進められています。
【国土交通省】建設用3Dプリンターを(公開しているPDF文書)
↑ 国土交通省発表のデータにリンクします。

この記事では、建設用3Dプリンターの特徴や可能性、そして実際の建設現場の視点から見た課題について整理してみたいと思います。
建設用3Dプリンターとは
一般的な3Dプリンターでは、主に次のような材料が使用されます。
- 樹脂(プラスチック)
- 金属
- ナイロン
- レジン
一方、建設用3Dプリンターでは、主に次のような材料が対象になります。
- モルタル
- コンクリート
- 骨材を含む建設材料
これらの材料をノズルから押し出し、設計された座標に沿って積層することで構造物を造形していきます。
実は建設工事はもともと「3次元の世界」
建設業界では、昔から立体的な施工管理が行われています。
例えば、
- 測量による座標管理
- 出来形管理
- 勾配管理
- 高さの管理
など、すべてが三次元の位置関係を基準にしています。
つまり、建設用3Dプリンターの考え方は、建設業界にとってまったく新しいものというよりも、既存の3次元管理を機械化したものとも言えます。
施工精度はどうなるのか
建設工事では、完成した構造物の寸法や形状を管理する「出来形管理」が重要です。
従来の施工では、
型枠の精度
職人の施工精度
測量の精度
などが完成精度に影響します。
一方で3Dプリンターの場合は、造形の精度は主に機械の性能に依存します。
適切に調整された機械であれば、人力施工よりも誤差が小さくなる可能性もあります。
ただし、3Dプリンターはあくまで「造形の方法のひとつ」であり、完全に機械任せにできるわけではありません。
3Dプリントでも必要な施工管理
建設工事では、施工そのものだけでなく、さまざまな管理業務が必要になります。
例えば、
- 使用資材の品質証明
- 出荷証明書
- 各工程の写真記録
- 出来形測定
- 立会検査
さらに、コンクリート構造物では次のような管理も重要です。
- 養生方法
- 養生期間
- 強度試験
- 温度管理
このような施工管理は、3Dプリンターを使った場合でも基本的に変わりません。
むしろ、温度・湿度センサーやカメラなどを活用し、データとして管理する仕組みが重要になると考えられます。

鉄筋や型枠の設置や、モルタル・コンクリート打設時に
ミキサー・ホッパー・圧送する装置が、3Dで管理された大型プリントノズルになったイメージですね。
すでに進んでいる建設の自動化
実は建設業界では、すでに多くの作業が機械化されています。
例えば土工事では、座標データを利用して自動で整地を行う建設機械も登場しています。
ブルドーザーやグレーダーなどの重機に施工データ(X,Y,Z)施工回数などを入力することで、
- 勾配を整える
- 指定された高さに整地する
といった作業を半自動で行うことが可能です。
このような技術は、広いグラウンドの整正工事などでも活用されています。
重機オペレーターや測量補助の人数を減らすことができるため、省力化につながります。
このように考えると、建設用3Dプリンターも同じ流れの中にある技術と言えるでしょう。
建設用3Dプリンターのメリット(複雑な形状、省力化)
建設用3Dプリンターの大きな特徴は、複雑な形状を比較的簡単に作れることです。
従来の建設では、施工性や型枠の制約から、直線的な構造が多く採用されてきました。
しかし3Dプリンターであれば、
- 曲線構造
- 球体構造
- ハニカム構造
などの複雑な形状も造形することが可能です。
例えば、SF作品に登場するような曲線的な建物なども、理論上は施工可能になります。

プレキャスト製品を現地で組み立てるタイプ、現地で直接構造を出力するタイプに分かれると思います。
とくに、強度や品質が認められた規格の製品やパーツを、現場単位ではなく同条件の他現場でも繰り返し使えるようすることが今回のテーマかもしれません。
それでも普及が簡単ではない理由
一方で、建設用3Dプリンターが急速に普及するかというと、現実にはいくつかの課題があります。
まず、設備コストです。
大型の建設用3Dプリンターは非常に高価であり、中小企業が導入するには大きな投資が必要になります。
また、
- 構造強度の検証
- 長期耐久性のデータ
- 地盤条件への対応
など、実際の建設現場では確認すべき要素が数多くあります。
さらに、多くの中小建設会社では
- 人手不足
- 後継者不足
- 投資余力の不足
といった問題もあり、新しい設備への積極的な投資が難しい場合も少なくありません。
3Dプリント建設は従来工事を補う技術
建設用3Dプリンターは、建設作業を完全に置き換えるものではありません。
建設工事では、
- 仮設工事
- 資材搬入
- 重機運搬
- 足場設置
- 安全管理
など、人の手が必要な作業が数多く存在します。
また、建物には
- 窓
- 建具
- 空調設備
- 電気配線
など、多くの設備が組み込まれます。
そのため、3Dプリントはあくまで「構造体の一部を効率的に作る技術」として活用される可能性が高いでしょう。
将来の建設技術として考えられる応用例
建設用3Dプリンターはまだ研究段階の技術ですが、将来的には従来の施工方法と組み合わせた新しい施工方法も考えられます。
例えば、次のようなアイデアです。
発生土や汚泥を利用した型枠施工・仮設
建設現場では、掘削工事などで大量の発生土や汚泥が発生します。
これらは処分や再利用の方法が常に課題となっています。
もし3Dプリンター技術を応用できれば、
- 発生土を積層して仮設型枠を作る
- 内部を空洞構造にする
- 外側からモルタルやコンクリートを打設する
といった施工方法も考えられます。
施工後は、内部の土を再利用したり、埋め戻し材として活用することも可能かもしれません。
粉末材料をレーザーで固める施工
もう一つ考えられる方法が、粉末材料を利用した造形です。
金属3Dプリンターなどでは、粉末状の材料にレーザーを照射して焼結させる技術がすでに使われています。
同じ考え方を建設材料に応用すれば、
- セメント系パウダーを敷き詰める
- 必要な部分だけレーザーで硬化させる
- 未使用の粉末は回収して再利用する
といった施工方法も理論上は可能です。
このような方法が実用化されれば、型枠を作る必要がなくなり、資材のロスを減らすことも期待できます。

仮に、建物の基礎材料がレジンだとしたら、真上から原寸の基礎図面を巨大なUVライトを照射して固めるようなイメージですね。
従来の施工と組み合わせる可能性
もちろん、これらの方法は現時点では研究段階のアイデアに近いものです。
しかし建設業界では、
- プレキャストコンクリート
- 自動施工重機
- GNSS施工
など、これまでにも新しい技術が少しずつ導入されてきました。
3Dプリンター技術も同様に、将来的には従来の施工方法と組み合わせながら、新しい工法として発展していく可能性があります。
現場の省力化につながるシンプルなデジタル技術
建設DXというと、大型機械やロボットなどの大掛かりな技術が注目されがちですが、実際の現場ではもっとシンプルなデジタル化でも大きな効果が期待できます。
例えば、設計データをそのまま現地に表示する方法です。
3Dモデルを現場に重ねて表示する(位置やサイズ、種類、数量データなども)
近年では、タブレットやAR機器を使って、3Dモデルを現地の風景に重ねて表示する技術も登場しています。
例えば、
- 配管ルート
- 基礎の位置
- 構造物の完成イメージ
などを、実際の現場の映像に重ねて確認することができます。
これにより、
- 図面の読み間違い
- 位置の勘違い
- 施工前の確認不足
といったミスを減らすことが期待できます。
平面図を地面に投影する施工支援
もう一つ考えられる方法として、設計図をそのまま地面に投影する方法があります。
例えば、
- 基礎の位置
- 配管ルート
- 墨出しライン
などを、プロジェクターなどで地面に直接表示できれば、墨出し作業の補助として活用できる可能性があります。
図面を見ながら寸法を確認して測量する従来の方法と比べて、直感的に位置関係を把握しやすくなります。

建設現場のように広い範囲を表示するのは難しいかもしれませんが
自動車に搭載されている、周りを上空からみているようなスカイビュー技術や座標付きの端末などが応用できそうです。
大掛かりな設備がなくても始められるDX
建設DXというと、高価な機械やシステムが必要と思われがちですが、実際には
- 3Dデータの活用
- タブレット表示
- 投影装置
といった比較的シンプルな技術でも、現場の作業効率を改善できる可能性があります。
特に、図面と現場の位置関係を分かりやすくするだけでも、施工ミスの防止や作業の効率化につながるかもしれません。
まとめ
建設用3Dプリンターは、建設DXの中でも注目されている技術のひとつです。
- 複雑な形状の施工が可能
- 施工精度の向上
- 省人化の可能性
など、多くのメリットがあります。
しかし実際の建設現場では、
- 品質管理
- 安全管理
- 施工管理
など、多くの工程が存在します。
そのため、3Dプリンターがすぐに従来の建設工事を置き換えるわけではなく、今後は既存の施工方法と組み合わせながら、徐々に活用が広がっていくと考えられます。
建設業界では、これからも機械化やデジタル化が進んでいくでしょう。
3Dプリンターも、その流れの中でどのように活用されていくのか、今後の動向に注目したいところです。


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