― オープンカットの安全性 ―
近年、YouTubeやSNSでは、
庭に穴を掘る
地下に小屋を作る
池や井戸を掘る
といった動画を見かけます。
重機を使う場合も、人力の場合もありますが、深さが1mを超える掘削は、見た目以上に危険です。
実際は「ゲームのように穴掘り(掘削)作業はできない」です。

動画クリエイターや視聴者が、予備知識なしで危険な作業をして事故やケガをしないように、最低限知っておいてほしいことをまとめました。
(物理的な注意点と図解ですので批判ではないです)
※筆者は地山掘削・土留め支保工作業主任者の資格を有しており、
実際の現場管理経験をもとに記載しています。
深さ1mの穴は「思っているより危ない」

地面に1mの穴があった場合、深く感じるでしょうか。
穴の中に大人が入ると、およそ胸のあたりまでの深さになります。
一見すると「立っていられそう」に見えますが、実際は危険です。

土は常に掘った空洞に向かって崩れようとする、これを土圧(どあつ)と呼びます。
人が中にいる状態で崩れると、生き埋めになります↓

特に一人作業の場合、万が一の場合、周りに助けを求めることも難しく
腰や胸まで埋まった時点で自力脱出は困難です。
「たかが1m」と考えてはいけません。

固く崩れにくい地面なら直角に掘っても浅ければ安定を保つ場合がありますが、土質が砂や泥などの場合や、水分が多い(地下水がある)ときは特に崩れやすいので注意が必要です。
1mの穴に身体が埋まったらどうなるの?

1mの深さの穴にある土は、
1m³あたり約1.6~2.0トンもの重さがあります(土質・含水比により異なります)。
仮に身体の一部が埋まっただけでも、数百kg相当の荷重が体にかかることになります。
この状態では、
- 足を持ち上げられない
- 膝を曲げられない
- 身体をひねれない
といった状況になり、繰り返しますが、自力での脱出はほぼ不可能です。
さらに、胸部や脚が強く圧迫されることで
呼吸がしづらくなる(窒息)・内臓や血管への負担といった、命に関わる危険性も高まります。
だから「たった1m」でも、甘く見てはいけない深さです。

土は柔らかく軽そうに見えますが
2tトラックに積んだ土砂が、一気に頭の上に落ちてきたら・・
まず立っていることもできませんし、無事では済みませんよね?
穴掘りの安全対策2つ 土留め・オープンカット
1m以上の深さを掘る場合、選択肢は基本的に次の2つです。
土留め(どどめ)を使う
オープンカットにする
土留め掘削(どどめ)工法を使ってご安全に!

壁を仮設材で支える方法で、一般的に下水道工事など(深さ3〜4m)で良く用いられます。
土留め掘削に必要な仮設材の考え方(例)
土留め掘削を行う場合、掘削延長に応じて相当数の仮設材が必要になります。
例えば、掘削する長さが30mあり、幅30cm(0.3m)の矢板を使用するケースを考えてみます。
30m ÷ 0.3m = 100枚
これは片側分の枚数になるため、左右両側に土留めを設置する場合は、
100枚 × 2面 = 合計200枚の矢板
が必要になります。

10mずつ掘って埋め戻しまがら(資材を引き抜いて)作業できる場合、必要な土留め材の数量は1/3になります。
仮設材は矢板だけでなく、腹起しと切梁(はらおこし・きりばり)も必要です
また、土留め工事では矢板を打ち込むだけでは不十分です。
掘削深さや土質に応じて、以下の仮設材もセットで必要になります。
腹起し(はらおこし)
矢板が内側に倒れ込むのを防ぐ横材
切梁・ジャッキ(突っ張り材)
左右の腹起しを押さえ、土圧に耐えるための部材
必要に応じて控え材や追加段数
打ち込み工具、チェーン、湧き水を排出する水中ポンプなど
これらは掘削の深さや地盤条件によって段数や本数が増えるため、
仮設材をリースする場合は、矢板の枚数だけでなく、腹起し・ジャッキ類も必要数量をすべて算出して借りる必要があります。
オープンカット工法を使ってご安全に!

掘削断面を斜めにする方法としてオープンカット(工法)というものがあります。これは土留めを使わず、土圧を逃がすシンプルな方法で
掘削する場所の幅に余裕がある場合に有効です。

この方法は、DIYや小規模工事では安全でコストも安いためおすすめです。(断面が大きくなるため、掘る土の量は増えます)
オープンカットには「安定勾配」がある
オープンカットでは、
掘削断面を斜めにして崩れにくくします。
勾配の目安は、
土質(崩れにくい性質の土か)
地盤の固さ
水分量(地下水位)
によって異なりますが、
1:1 → 約45度
1:0.5、1:1.5 など
といった考え方があります。
掘削する土の量は増えますが、
安全性は大きく向上します。
段切り(小段)も有効な方法

斜めに掘る代わりに、段状に掘る方法を段切りと呼びます。(小段を設ける)
例として、
深さ1m
左右に50cmの小段
を設けると、
一気に崩れにくい
人が埋まるリスクを下げられる
45度の傾斜に近い効果を、段で再現した形と考えると分かりやすいです。
土留め・地山掘削の作業主任者としての経験から 掘削作業を撮影する前に考えてほしいこと
近年、掘削作業を伴う動画や画像をSNSや動画サイトで目にする機会が増えています。
しかし、地面を掘る行為は見た目以上に危険を伴う作業であり、土質や含水状態、掘削深さによっては、わずかなきっかけで土砂が崩れることがあります。
とくに、
- 崩れやすい砂質・粘性土の地盤
- 地下水位が高い場所
- 1mを超える深さの掘削
- 人が穴の中に入った状態での撮影
これらが重なると、事故につながるリスクは一気に高まります。
動画や写真を撮影する場合でも、
「どの程度の深さなのか」
「その土は自立する地盤か」
「万が一崩れたときに逃げられるか」
といった点を事前に考慮し、必要であればオープンカットや土留めなどの安全対策を取ることが重要です。

「これくらいなら安全」「前回は大丈夫だった」
それは、その場にいた本人の経験談にすぎません。
もしその映像を見た知識のない人や子供が同じことをして事故を起こしたら、その結果に、誰が責任を持てるでしょうか。
そんなことにならないように、この記事を作成した次第です。
撮影のために無理をした結果、事故が起きてしまっては本末転倒です。
安全を確保したうえで、無理のない範囲で作業・撮影を行うことを強く意識してほしいと思います。


