事業を営む上で、資金繰りが良好であることは欠かせない要素です。
人件費や設備投資、材料費の支払いがスムーズに回らなければ、資金繰りは一気に悪化します。
どんなに現場が順調でも、資金管理が疎かになれば、事業の継続は難しくなります。
かつて私は、ある建設会社で現場管理を一任され、多くの工事を成功に導いてきました。
しかし、資金繰りの悪化により、最終的に会社が倒産するという痛ましい経験をしました。
キャッシュフローが滞ると、事業運営は厳しくなる。
どれほど優れたプロジェクトでも、支払いの遅れが重なれば、会社は立ち行かなくなります。
私が経験から学んだのは、キャッシュフローの管理が事業の生命線であるという事実です。
この記事では、私の経験を基に、中小企業、とりわけ建設業における資金管理の重要性と
キャッシュフロー改善の具体的な方法をお伝えします。
これからの事業運営に、少しでもお役に立てれば幸いです。

経営サイドと現場サイド両方からの視点です。
資金ショートの主な原因6つ

資金ショートとは、会社の手元資金が不足し、必要な支払いができなくなる状態を指します。日々の運転資金(人件費、材料費、家賃など)が確保できなくなり、事業継続が困難になる危機的状況です。

資金ショートの主な原因として
- 入金と支払いのタイミングのずれ
- 売り上げ減少や受注不足
- 予期せぬコスト増加
- 借入金の返済負担
- 資金管理の不備
- 売掛金の回収遅延
などがあります。

この6つをさらに詳しく解説していきます。
なるべく分かりやすい言葉で。
1.入金と支払いのタイミングのずれ

資金ショートの主な原因としてよく挙げられるのが、入金と支払いのタイミングのズレです。
これは企業のキャッシュフローに大きな影響を与える要因で、特に建設業や製造業などでは顕著です。
なぜ入金と支払いタイミングが重要なのか
建設業の場合
- 支払いが先行:材料費、下請け業者への支払い、作業員の賃金は、工事が進むにつれて発生します。
- 入金が後回し:工事が完了してから、検査や書類の確認を経て、数か月後に入金されることが一般的です。
製造業の場合
- 支払い:原材料の仕入れ費用が先に発生しますが、商品が完成してから販売し、さらにその後に売掛金の回収が行われます。
- 入金:販売から回収までに数か月程度かかることが多い。

特に人件費(労務費)の支払いが優先されます。
なぜタイミングのズレが問題なのか?
- 支払期日を守れないと、取引先からの信用を失う可能性があります。
- 手元資金が不足すると、追加の借り入れが必要になり、利息負担が増加します。
- 支払いの滞納が続けば、最終的に事業の継続が難しくなります。
対策のポイント
支払期日と入金期日の調整
仕入先や取引先と交渉し、支払い期日を延ばす、または入金を早めることが有効です。
資金繰り表の活用
将来の入金・支出予定を可視化し、資金不足の予兆を早めに把握します。
2.売上減少や受注不足

売上の減少や受注不足は、企業の資金繰りに大きな影響を与える要因の一つです。これは企業の収益が減少することで、支払いに必要な現金が不足しやすくなる状況を指します。
特に、中小企業や景気の変動を受けやすい業界では深刻な問題となります。

赤い丸で囲っている「固定費」だけでも
常に頭の中に入れといてください。
なぜ売上減少が資金ショートを招くのか?
固定費の存在
- 売上が減少しても、人件費、家賃、光熱費などの固定費は一定額発生します。
- 売上に比例しないこれらの支出が、資金を圧迫する原因となります。
入金サイクルの遅れ
- 売上が減ると売掛金も減り、既存の入金サイクルに頼れなくなります。
- さらに受注不足の場合、次の工事や注文が入るまでの資金の空白期間が発生します。

気付かないうちに、どんどん売上げが下がり
やがて固定費だけが残った・・というのは大げさですが

何よりも「固定費」の見直しと改善が重要です。
要は、色々と抱え込まないことですね。
建設業の場合
- 新規の受注が減ると、手元資金が減少。
- しかし、工事中の人件費や材料費は引き続き発生し、赤字状態が続く可能性があります。
製造業の場合
- 大口注文がキャンセルされる、または減少した場合、製造ラインの稼働は継続するため、在庫が増え、資金が滞ることがあります。
対策のポイント
受注先の多様化
- 大口顧客に依存せず、複数の顧客から安定した受注を確保することでリスク分散を図ります。
固定費の見直し
- 固定費を削減するための効率化を進め、柔軟な体制を整える。
- 例:業務の外注化、在庫管理の最適化など。
資金調達の備え
- 売上減少時に備えて、あらかじめ金融機関と融資枠の確保を行っておくことが重要です。

世の中の状況をみて、臨機応変に対応できるように
キャッシュがいつでも動かせるように!
3.予期せぬコスト増加

予期せぬコスト増加は、企業の資金ショートを引き起こす重大な原因です。
計画外の支出が発生することで、予定していた資金の流れが崩れ
資金繰りが一気に悪化する可能性があります。

現場では実行予算や進捗管理などの担当
経営陣は全体の資金管理を担当
その中間にいるのが経理(事務)ですから
意思疎通をしっかりと一枚岩になるべし。

実行予算や進捗管理の解説は
近日中に行います。
作業の遅れによるコスト増加
主な原因
- 天候不良:悪天候で工事が中断され、予定通りに進行しない。
- 人員不足:現場作業員の不足や病欠により、作業スピードが低下する。
- 資材の納品遅れ:必要な資材の到着が遅れることで、作業が停止。
結果として発生するコスト
- 人件費の増加:作業期間が延びることで、追加の労働コストが発生する。
- 機材レンタル費の増加:仮設資材や、クレーン・重機のレンタル期間が延長され、費用が増える。

こういったコストは
受注者側が負担する場合が多いです。

今後、働き方改革の実施によって、休日や始動しない日のレンタル費を、どう落としどころを決めておくかですね。
手直しによるコスト増加
主な原因
- 設計ミス:図面や計画の誤りで、再施工が必要になる。
- 施工ミス:現場での作業ミスや品質不良によるやり直し。
- 仕様変更:発注者からの仕様変更や追加工事の要求。

設計や施工ミスは責任問題。とにかくチェックが必要。
発注者からの仕様や設計変更には迅速に対応しつつ
変更の費用データをまとめて契約変更!
結果として発生するコスト
- 材料費の無駄:再施工のために新たな資材を購入する必要がある。
- 人件費の増加:手直しにより、通常の作業以外の工数が発生する。
- 顧客からのペナルティ:納期遅延や品質不良による契約違反のペナルティが科されることもある。

手直しは、倍以上のコストがかかります。
そうならないように、普段からしっかり計画を行いましょう。
対策のポイント
工程管理の徹底(進捗管理)
- 作業の遅れや手直しを未然に防ぐため、進捗管理を頻繁に行い、早期に問題を発見する体制を整える。
品質管理の強化
- 現場での作業ミスを防ぐために、チェックリストや品質管理基準を設け、定期的な検査を実施する。
予備費の確保と条件付き契約
- 予期せぬコスト増加に備え、契約時に予備費を確保しておく。
- 万が一、当初予期しなかった変更が発生した場合に、契約内容の変更を行えるように打合せる。
(不可抗力)
4.借入金の返済負担

借入金の返済負担は、企業の資金ショートを引き起こす主要な要因の一つです。事業資金を確保するために借り入れを行うのは一般的ですが、返済が計画通りに進まないと、資金繰りが悪化するリスクがあります。特に返済額が重くなると、運転資金が不足し、他の支払いに影響を及ぼす可能性があります。
借入金返済による資金ショートの主な原因
収入と返済額のアンバランス
- 固定的な返済スケジュール:融資は通常、毎月一定の金額を返済することが求められますが、収入が安定しない業種(建設業など)では返済が難しくなりがちです。
- 短期借入金の過剰利用:短期間での返済を求められる借入金を多用すると、キャッシュフローに大きな圧力がかかります。
利息負担の増加
- 金利の上昇:変動金利の融資を受けている場合、金利が上昇すると返済額が増加し、資金負担がさらに大きくなります。
- 高金利の借入:銀行以外の高金利の借入れ(例:ノンバンクや消費者金融)を利用すると、利息負担が膨らみ、返済負担が重くなります。
返済計画の見通し不足
- 返済計画の甘さ:将来の収益予測が甘いと、想定以上の返済負担に直面することがあります。
- 資金繰りの予測ミス:キャッシュフローの予測が適切でないと、返済時期に資金が不足しやすくなります。

一時しのぎや無計画な借り入れは危険です。
甘く見ていると、利息に〇されますよ。
対策のポイント
- 返済スケジュールの見直し
- 返済期間を延長したり、返済額の変更を銀行と交渉することで、負担を軽減できます。
- 金利条件の交渉
- 金利引き下げの交渉や、より低金利の融資への借り換えを検討することも有効です。
- キャッシュフローの見直し
- 借入返済を考慮したキャッシュフロー計画を作成し、支出と収入のバランスを再確認することが重要です。
- 資金調達の多様化
- 借入以外の資金調達手段(例:クラウドファンディングや投資家からの出資)を検討することで、返済負担を軽減することが可能です。
5.資金管理の不備

資金管理の不備は、企業の資金繰りに大きな悪影響を与える要因の一つです。適切な管理が行われていないと、必要なタイミングで資金が確保できず、支払いの遅延や資金ショートを引き起こす可能性があります。
特に中小企業では、資金管理に関する専門知識や体制が不足しがちなため、注意が必要です。

資金繰り表がない・・
資金管理の不備が引き起こす主な問題
1. 現金の流れを把握していない
- 収入と支出の詳細な把握不足:売上や支出のタイミングを正確に把握していないと、必要な時に資金が不足する事態を招きます。
- キャッシュフロー予測の欠如:将来の現金収支を予測せずに運営すると、突発的な支払いに対応できなくなります。
2. 資金繰り表の未整備
- 資金繰り表の未作成:資金繰り表は、企業の収入と支出のスケジュールを管理する重要なツールですが、作成されていないと資金状況が見えなくなります。
- 過去のデータの未活用:過去の資金管理データを分析せず、計画を立てる際に誤った判断を下しやすくなります。
3. 支払いと回収の管理が不徹底
- 売掛金・買掛金の管理不足:売掛金の回収が遅れたり、買掛金の支払い期限が近づいているのに気づかないと、資金不足が発生します。
- 回収サイトの管理不備:取引先との契約で設定されている回収期間や支払い期間を見落とすと、資金繰りが滞ります。
4. 在庫・資材の管理不備
- 過剰な在庫保有:在庫が過剰になると、資金が在庫に固定されてしまい、運転資金が不足します。
- 資材発注のタイミングミス:必要以上の資材を発注することで、資金が流出し、他の支払いに回せなくなります。

【5W1H】とは
いつ(When)
どこで(Where)
誰だれが(Who)
なにを(What)
なぜ(Why)
どのように(How)
資金管理の不備が引き起こす例
建設業の場合
ある建設会社が、資材の発注時期を誤り、大量の在庫を抱えてしまいました。結果として、資材費用が一時的に膨らみ、他の支払いが遅延。これにより、協力会社への支払いが滞り、工事全体の進行に影響が出ました。
製造業の場合
小規模な製造業者が、売上予測を誤って多額の投資を行い、設備投資の返済と日常の運転資金が同時に不足する事態に陥りました。これにより、新規注文の対応も遅れ、さらなる資金不足を引き起こしました。
改善策:
- 資金繰り表の整備
- 毎月、もしくは週単位で資金繰り表を作成し、常に現金の流れを把握することが重要です。
- 売掛金・買掛金の厳格管理
- 売掛金の早期回収と買掛金の支払いスケジュールを徹底的に管理し、資金繰りを安定させます。
- 在庫管理の最適化
- 過剰な在庫を避けるため、適正在庫水準を設定し、必要に応じて在庫の見直しを行います。
- 定期的なキャッシュフロー予測
- 短期および長期のキャッシュフローを予測し、突発的な資金不足に備えます。
- 情報共有の強化
- 経営層と現場、経理担当者の間で情報を共有し、資金管理に対する全社的な意識を高めることも重要です。
6.売掛金の回収遅延

売掛金の回収遅延は、資金ショートを引き起こす主要な原因の一つです。企業が商品やサービスを提供した後、取引先からの支払いが期日どおりに行われないと、資金が予定通りに回らず、他の支払い義務を果たせなくなるリスクがあります。特に中小企業や建設業では、売掛金の回収遅延が連鎖的な資金繰り悪化を引き起こしやすいため、注意が必要です。
売掛金回収遅延が起こる主な要因
- 取引先の資金繰り悪化
取引先自体が資金難に陥り、支払いが遅れるケースです。取引先の経営状況を事前に把握していないと、突然の支払い遅延に対応できなくなります。 - 契約書や支払条件の不明確さ
支払い期日や条件を明確にしないまま取引を進めると、期日が守られないケースが増えます。また、契約書の不備や曖昧な条項もトラブルの原因になります。 - 支払いサイトの長期化
取引先が意図的に支払いを遅らせる「長い支払いサイト」が原因になる場合もあります。特に大手企業との取引では、支払いサイトが長くなりがちです。 - 内部管理の不備
請求書の発行遅れや回収スケジュールの管理不足があると、企業側が回収を追いきれなくなります。適切なタイミングで請求を行わなければ、回収が後手に回ります。

支払いサイトや回収サイトっていうのは
入金されるまでの期間のことです。

近年、経済産業省で利用を促進しているのが
売掛債権を活用した資金調達方法「ファクタリング」です。
実例:
建設業の場合
A社が大規模な建設工事を請け負い、取引先との契約で120日後の支払い条件を受け入れました。工事完了後、回収までの期間に資材費や人件費の支払いが重なり、資金繰りが厳しくなりました。結果として、他のプロジェクトへの影響が生じ、追加の借入が必要となりました。
製造業の場合
中小製造企業B社は、納品後に請求書の発行を忘れ、取引先への支払い請求が大幅に遅れました。その後、取引先からの支払いが遅延し、原材料の購入に必要な資金が不足しました。
回収遅延への対策
- 支払条件を明確にする契約の締結
契約書に支払い期日、遅延時のペナルティ、利息などを明記し、取引開始時から支払い条件を明確にします。 - 早期回収インセンティブの導入
早期支払いを行う取引先に対して、値引きや特典を提供することで、回収サイクルを短縮します。 - 請求業務の自動化・迅速化
請求書の自動発行システムを導入し、請求書の遅延発行を防ぎます。また、定期的なリマインドを行う体制を構築します。 - 取引先の信用調査の実施
取引開始前に取引先の信用情報を確認し、支払い能力のリスクを事前に把握します。 - 分割回収や前払い契約の活用
特に大規模な取引では、分割払いの条件や前払いの契約を検討し、リスクを分散します。
資金ショート、中小企業の資金管理とキャッシュフロー改善のまとめ

資金ショートは、事業の継続にとって致命的なリスクとなりますが、以下のポイントを押さえることで、回避や改善が可能です:
- 入金・支払いのタイミング管理
支払いサイトと回収サイトのズレを把握し、資金繰り表を定期的に更新して現状を見える化する。 - 売上の安定化と受注の多様化
特定の取引先に依存せず、売上の安定を図り、常に新しい受注の可能性を模索する。 - コスト管理の徹底
予期せぬコスト増加を防ぐために、工事や業務の進捗を常に確認し、無駄を最小限に抑える。 - 借入金の適切な管理
借入金の返済スケジュールを把握し、無理のない返済計画を立てる。 - 資金管理体制の整備
経理部門と現場が連携し、資金の流れをスムーズにする仕組みを整える。 - 売掛金の回収強化
支払条件の明確化や請求業務の迅速化により、回収遅延を防ぎ、キャッシュフローの安定を図る。

最後に一言
資金繰りやキャッシュフローの管理は、現場の業務以上に重要です。これまでの経験や失敗から学んだ知識を活かし、安定した事業運営を目指しましょう。企業が健全なキャッシュフローを維持できれば、未来への投資や成長の可能性も広がります。