3Dプリンターに用いられる3Dデータの保存形式は、おもにSTLです。
今回は3DCADであるTurboCADを使って3D歯車を作成し、3Dプリンターで実際に立体造形する手順を図や写真を使って解説します。3DCADや3Dプリンターに興味のある方は、ぜひ最後までご覧ください。
こんな方におすすめです
TurboCADの操作が分からない
CADを使ったことがないためどこから始めたらいいか分からない
他の3DCADを使用しているが、3Dモデル作成は難しそう
本当に3Dプリンターが使えるか知りたい
この解説では、TurboCADの基本的な操作だけで歯車を作成するため、CAD初心者でも順を追って作業していけば簡単に再現することができます。
また、TurboCAD以外の3DCADをお使いの場合でも、基本的な操作ができれば、同様の機能を使用することでほぼ同じ操作が可能です。

3Dプリンターに対応したファイル形式で保存できれば
基本、どんな3DCADを使っても問題ありません。
3Dプリンターで3Dモデルを印刷する動画:CADからSTLファイル作成
上の動画は、3DCAD(TurboCAD)で作成した3Dの歯車のデータを使って
3Dプリンターで印刷(造形)している状況です。
動画の容量を削減するため、中盤当たりの速度を倍速にし、BGMもカットしています。
動画は1分以内に収めていますが、実際印刷にかかった時間は7~8分程度です。
(印刷を開始してからノズル温度調整などが入るため)
これから3DCADや3Dプリンターを使ってみたいと考えている方の参考になれば幸いです。
具体的な活用方法をまとめた記事はこちらから
建設現場における3Dプリンターの活用
TurboCADを使って歯車を作る
TurboCADまたは3DCADを起動します

上の図は、TurboCADを起動した直後の画面です。
今回作成する歯車は、グリッドを基準にして行いますので、カーソルが自動的にグリッドにスナップするように設定しておきます。
Turbocadの場合は、画面左側の「スナップ」の「グリッド」をオンにしておきます。

Turbocadではアイコンやツールの位置を自由にカスタマイズできるため、お使いの環境の画面とは異なります。予めご了承ください。
歯車の基準となる円を描きます

画面上のどこでもいいので、適当な大きさの円を描きます。
Turbocadでは、「① 円の中心をクリック」→「② 円の外側をクリック」することで円を描くことができます。
歯車の内側(穴)の円を描きます

先ほど描いた円の中心を使って、歯車の穴となる部分の円を描きます。
歯車の突起部分を「矩形」を使って描く

今回の例では、シンプルな方法で解説するため、歯車の突起部分を「矩形(四角形)」を使います。
Turbocadでは、線ツールなどのアイコンを長押しすると同様の作図ツールが表示されますので
「矩形」を選択してください。
歯車の突起部分を描く

矩形(四角形)を、最初に描いた外側の円に重なるように描きます。
歯車の突起部分をギザギザにしたい場合は多角形(三角形など)を使ったり、円や円弧を使って丸みを帯びた形にすることもできます。

アレンジによっては星形やハート型の突起もできます。
歯車の突起部分を、上下左右の4方向に作成します

先ほどと同様に、グリッドに合わせて4方向に歯車の突起を作成します。
今回は、簡単な操作方法で紹介していますが、グループ化や配列・ミラーなどの機能を使って作業効率を上げることも可能です。

色々方法はありますが、情報が複雑になるため割愛します。
歯車の突起部分をすべて選択する

円形の歯車の形状に合わせて、斜め方向の矩形(四角形)を手作業で行うのは面倒です。
先ほど作成した4つの突起を、角度を変えてコピーすれば効率的です。
Turbocadでは、画面左上の「選択ツール」を使って、図形を選択します。
複数の図形をまとめて選択するには、Ctrlキーを押しながら図形をクリックするだけです。
「ラバースタンプ」またはコピー&ペーストで図形をコピーします

4つの突起部分を選択した状態で、マウス右ボタンをクリックすると、メニューが開きます。
その中にある「ラバースタンプ」は、コピー&ペースト(Ctrl+C,Ctrl+V)を自動で行ってくれる機能です。

ラバースタンプは、何度でもコピペできるだけでなく
コピーする基準点も自由に配置できるんです。
上の画像では、中心の黄色のマーカーが基準点です。
「ラバースタンプ」またはコピー&ペーストで歯車の突起をコピーする

最初に描いた円の中心と同じ位置に貼り付けてください。
選択している複数の突起は、円を中心に描かれているため、図形の中心点は円の中心に等しくなっています。

ちなみに、基準点の位置を変えたい場合は
黄色のマーカーをCtrlを押しながらクリックして
移動させることができます。
緑のマーカーは角度を回転させるハンドルです。
歯車の突起部分を斜め方向にコピーする(動画)
ラバースタンプ機能を使って貼り付けた図形(もしくは元の図形)は、任意の角度に回転させることができます。
上の動画では、マウスの動きに合わせて図形が回転していますが、回転角度を45度に設定することで歯車の突起を再現しています。
もっと歯車の数を増やしたい場合は、15度や30度などの角度を入力することで再現することができます。
ブーリアン演算を使って歯車の外形を整える

Turbocadだけでなく多くのCADでは、複数の図形をひとつにまとめる「(2D)ブーリアン演算」という機能があります。注意点として、角が閉じている図形が重なっていることが条件です。
Turbocadでは、2Dブーリアン演算(和)を使用すると、2つの図形を自動で合成してくれます。
2Dぶーり演算(和)を使用したい場合は、メニューから「変更」→「2Dブーリアン演算」→「2D(和)」を選択して下さい。

CADやグラフィック、モデリングソフトには
このブーリアン演算機能が充実しています。
ブーリアン演算をよく使用する場合は、メニューをカスタマイズすると便利です

Turbocadのツールバーは、良く使う機能をあらかじめセットしておくことができます。
上の図では、「2D和」をツールバーに設定しています。
2Dブーリアン演算(和)操作① 使いたい最初の図形を選択します

最初に描いた円と、歯車の突起部分を合成するために、2Dブーリアン演算(和)の機能を使います。
まずは突起部分の矩形を選択します。
※Turbocadでは、選択しているツールの説明が、画面左下に表示されます。
上の画像では、画面左下に「次の図形を選択」と表示されていますね。
2Dブーリアン演算 操作② 歯車の外側の円を選択する

2つの図形がうまく重なっていると、ブーリアン演算が行われます。
上の図は、変化が分かりやすいように、図形の線の太さを太く表示しています。

最初に選択した歯車の突起部分と、円が合体しています。
ブーリアン演算(和)を使って、歯車の突起を合成していきます

ブーリアン演算を行う順序は、どの順番でも大丈夫です。
歯車の円と突起部分がうまく合成されました

ブーリアン演算を使って、歯車の円とすべての突起部分を合成したものです。
バランス的には、もう少し突起部分を長くしても良かったかもしれませんね。
ブーリアン演算(差)を使って、歯車の中央に穴をあける

歯車の外形は完成したので、2D図形の仕上げに、歯車の中心に穴をあけます。
歯車中心の穴を作成するには、先ほど作成した歯車の外形と、内側に作成した小さな円を使って図形を切り出す「2Dブーリアン演算(差)を使います。
Turbocadメニューから「変更」→「2Dブーリアン演算」→「2D(差)」を選択します。
ブーリアン演算(差)を良く使う場合は、ツールに登録しておくと便利です

2Dブーリアン演算で図形に穴をあける 操作① 差し引かれる図形を選択

2Dブーリアン演算(差)の機能を使用した状態で、まず「差し引かれる図形」を選択します。
今回の例では、歯車外形の図形が該当します。
その後、中心の小さな円を選択すると、歯車に穴が開きました。
(先に選択した図形から、後に選択した図形が差し引かれた)

くりぬかれた、と表現してもいいかもしれません。
完成した図形が、きちんとできているか確認します

ブーリアン演算を行った図形が、正しく1つの図形になっているか分かりやすくするために
図形の色と塗パターンを変更してみました。
上の図では、選択している色が緑色なのに、歯車がピンク色になっていますが、Turbocadは選択している図形がピンク色でハイライトされる仕様のためご了承ください。
2Dの歯車を3D図形に編集する方法

ここまで2DでCAD図面を作成してきましたが、いよいよ2Dモデルを3Dに編集していきます。
すでに歯車のベースとなる2D図形は完成しているので、難しいことはありません。

ここまでが2DCADの基本操作です。
2D図形を3Dに編集する方法はいくつかありますが、今回は「厚さ」を使った立体化を行います。
Turbocadでは、立体化したい図形を選択した状態で、マウスを右クリックし、図形のプロパティを開きます。
図形のプロパティから厚さを設定します

図形のプロパティ画面が表示されたら、「3D]を選択し、「厚さ」に任意の厚さを入力します。
これだけで2D図形の立体化は完了です。

これだけで2DCADの3D化は完了です。
※元の2D図形の厚さは0mmになっているため、X軸とY軸で描かれた図面は真横から見ると線に見え、厚さ(Z軸)に値を入力することで平面が立体になります。

Xj軸とY軸のことを確認したい方はぜひ。
Turbocadを使って歯車を立体化
上の動画は、歯車を立体化させた状態を表したものです。
画面表示は、ワイヤーフレーム表示、陰線処理、ドラフトレンダリング、クオリティレンダリングの順で切り替えており、最期にカメラのパースペクティブ(視野角)を変えています。
現在は、日本におけるTurbocadの販売は終了したため、Amazonでは在庫切れとなっています。
Turbocad開発元のIMSI DESIGNではTurbocad 2024が最新となっています。
(日本でのバージョンと表記が異なり、米国版2019がV26となります)

日本市場での販売元は、一時期CanonITソリューションズでしたが
あまり積極的ではなかったような気がします。
Turbocadには、ぜひ日本での販売を復活させて欲しいですね!
Turbocadで作成した3Dデータを3Dプリンターで印刷する方法

Turbocadを使って3Dプリンターに対応した3Dデータを作成するには、STL形式のファイルで保存します。
多くの3DCADではSTL形式で3Dデータを保存、共有できるため非常に便利です。
もちろんMAYAやBlenderなどの3Dモデリングソフトを使ってSTL形式のデータを作成しても大丈夫です。

3DプリンターにSTL形式のデータをインポートする

上の画像は、以前このサイト内で紹介した3Dプリンター「QIDI TECH Q1Pro」に付属しているスライサーソフトの画面です。
先ほどTurbocadを使って作成した、歯車の3Dデータ「STL形式」をインポートします。
「ファイル」→「インポート」→「STLのインポート」を選択します。
3Dスライサー付属のQIDI TECH Q1Proの詳細はこちら
3Dプリンターに取り込んだ3D歯車のサイズを整える

先ほどTurbocadで作成した3D歯車は、解説用ということもあって少しサイズが大きすぎたようです。

画面中央に、警告が表示されています。
サイズを修正するだけなので、焦る必要はないですよ。
3Dプリンターに取り込んだ3Dモデルのサイズを変更するには

3Dプリンターに取り込んだモデルのサイズを調整するには、画面右側の「寸法係数」の値を100%から任意のサイズに変更するだけでOKです。

3Dプリントするサイズが大きいと、かなり時間がかかります。
慣れないうちは、小さなサイズで印刷してみるといいですね。
この歯車のモデルを10%のサイズで印刷すると、幅約28mm、高さ約5mmになるようです。
(本来はCADでデータを作成するときにサイズを整えておくことをおすすめします)
3Dデータをスライス加工し、USBや無線LANで3Dプリンターに送信する

スライサーソフトに3Dデータをインポートすると、QIDI Slicerの場合、画面右下に「スライスを実行」というボタンが表示され、選択すると、プリンターに設定しているフィラメントや密度などを自動的に計算し、造形に必要なサポート材なども設定してくれます。
今回の例では、2D平面に厚さを与えて3D図形を作成しているため、サポート材は必要なく
インフィル(造形した3Dモデル内部の密度:この例では15%)を設定しています。
歯車:ギアの3Dプリンター用のSTLモデルのダウンロード

今回使用した3Dモデル「歯車」のデータをお試しください。
もちろん無料でお使いいただけます。
3Dプリンターに、歯車の3Dモデル(STL)をインポートする

Turbocadで作成した歯車モデルデータが、3Dプリンター用のデータとして読み込まれました。
(ファイル形式は、スライサーソフトを経由してgcode形式に変換されています)
QIDIの画面には、このモデルを印刷するために必要な時間(約5分)、使用するフィラメントの重量(1.4g)、使用するフィラメントの長さ(0.5m)、ABS樹脂を使用する、と言った情報が表示されています。
内容を確認し、再生ボタンを押すと印刷の準備が開始します。
QIDIの操作画面はタッチパネル式です
3Dプリンターのノズル温度、チャンバー温度、庫内の温度を調整します(自動)

ノズル温度、チャンバー温度、庫内の温度は、使用するフィラメントなどの条件によって
3Dプリンターが自動的に最適な温度に調節してくれます。
室内の温度が高ければ、温度調節にかかる時間も短くなります。
内蔵されているセンサーが常に全体の温度を監視し、温度が高くなりすぎるとファンが回転して温度を調節してくれるので安心です。
3Dプリンターが実際に稼働している状態を確認したい方は、記事の冒頭に動画を載せておきましたので、ぜひご覧ください。
出来立ての3Dモデル

歯車の立体化が完了しました。まるで電子レンジで温めたかのようなぬくもりを感じます。

最近流行りのゲームのように、武器やアイテムをアンロックして
いつでも作れるようになるマシーンですね。
ちなみに武器は作ってはいけません。
造形したモデルは、すでにそれなりの強度になっています。
チャンバー温度が高いうちは、やけどしないように十分注意してプレートを取り外します。

同じモデルを2つ印刷してみました。(表面と裏面)
Turbocadでは、おおよそのサイズで歯車を作ったのですが、突起部分のサイズと角度がぴったりでした。

厚さ5mmもあれば、かなり丈夫になります。
単純な形状でも、円や曲線、補強用に斜めの線を組み合わせると
強度が大幅に向上します。

今回の例では、歯車の形状を作成しましたが
ネジやバネ、IC部品やセンサーなどと組み合わせれば
さらに高度なものが作れると思います。

