建設業では、従業員の健康管理が現場の安全や生産性に直結します。特に労働安全衛生法で定められた健康診断の実施は、企業にとって義務であるだけでなく、労働者を守る重要な取り組みです。本記事では、健康診断の種類、対象者、費用負担、実務上の注意点について分かりやすく解説します。
健康診断の種類
一般健康診断(一般従業員向け)
| 雇入れ時健康診断 | 新たに「常時使用する従業員」を雇い入れる際に実施。 |
| 定期健康診断 | 常時使用する従業員に対して年1回以上実施。 |
| 特定業務従事者の健康診断 | 深夜業など特定業務に従事する従業員に対し、業務転換時および6ヶ月ごとに実施。 |
| 海外派遣労働者の健康診断 | 6ヶ月以上の海外派遣前後に実施(短期出張は除く)。 |
| 給食従業者の検便 | 炊事や食堂業務に従事する際、雇入れまたは配置換え時に実施義務あり。 |
特殊健康診断(有害業務従事者向け)
| 特殊健康診断 | 有機溶剤や騒音などの有害業務に従事する労働者対象。 |
| 歯科医師による健康診断 | 塩酸・硫酸など腐食性物質を扱う業務に従事する労働者対象。 |
| じん肺健康診断 | 粉塵作業などでじん肺のリスクがある作業従事者対象。 |
その他の健康診断
| 臨時健康診断 | 特定の事情に応じて企業が自主的に行う診断。 |
| 自発的健康診断 | 従業員自身の希望により受ける健康診断。 |
パート・アルバイトも健康診断の対象か?
以下の要件を満たす場合、パート・アルバイトでも健康診断の対象になります。
【要件1】
契約期間が1年以上(特定業務は6ヶ月)
または契約更新により1年以上の継続が見込まれる場合
すでに1年以上使用されている場合
【要件2】
所定労働時間が正社員の4分の3以上であること
※4分の3未満でも、2分の1以上で要件1を満たす場合は、実施が望ましいとされます。
健康診断の費用は誰が負担するの?
健康診断にかかる費用は、労働安全衛生法により事業者(会社)が負担すべきと定められています。
従業員本人が自己負担する必要はありません。
健康診断後に辞める従業員・解雇予定者はどうする?
法的には、雇用期間中であれば健康診断を受ける義務があり、会社側にも実施義務があります。
ただし、辞める前提での受診や、直後の解雇予定などについては、トラブルの火種になりかねないため注意が必要です。
行政対応や制度の運用方針を確認の上、労使間で丁寧な説明・合意が望まれます。
健康診断に要した時間の賃金は誰が支払うのか?
健康診断の時間は、会社の指揮命令下ではないため「労働時間」に該当しないとされています。
よって、法的には賃金の支払い義務はありません。
ただし、従業員の健康確保は企業活動の基盤でもあるため、賃金を支払う運用が推奨されるケースも多く、労使協議のうえ対応方針を定めておくことが望ましいです。
健康診断でよくある質問と対応【Q&A形式】
1.健康診断実施における義務と罰則
- 健康診断を受ける義務があるのでは?
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労働安全衛生法第66条により、会社は従業員に対して健康診断を受けさせる義務があります。
特に「常時使用する従業員(正社員、一定条件を満たすパートなど)」には、雇入れ時と年1回の定期健康診断が必須です。 - 会社が健康診断を受けさせないのは違反?
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はい、事業者が実施しなかった場合、労働安全衛生法違反となり、罰金が科される可能性があります。
ただし、個人経営で情報に疎いなど、悪意がないケースも多いため、労働基準監督署の是正指導が優先されることもあります。 - 前回の健康診断から1年以上(または6ヶ月)過ぎている。違法では?
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原則として、定期健康診断は「1年以内に1回」実施する義務があります(特定業務従事者は6ヶ月に1回)。
過ぎてしまっている場合は、「努力義務」ではなく違反状態とみなされることがあり、速やかな実施が必要です。 - 健康診断を受けないとどうなる?
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労働者が正当な理由なく拒否した場合、会社は是正を求めることができ、それでも応じないときは就業規則に基づき指導・処分対象となることもあります。また、万が一の病気の早期発見が遅れるというリスクも伴います。
- 健康診断を受けさせない(受けない)のは罰則がある?
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会社側):会社が健診を実施しない場合、前述のとおり労働安全衛生法違反で罰則あり。
(従業員側):従業員の拒否自体に直接の罰則はありませんが、業務継続上の問題が発生することがあるため、会社は注意・指導が可能です。
2. 健康診断の結果が悪かった場合の対応(再検査や休職対応)
- 健康診断で「要再検査」と言われたが、再検査を受けないまま出勤していいの?
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出勤自体は可能です。ただし「再検査の結果次第では業務に支障が出る」可能性があるため、会社としては医師の判断に従い、就業制限・業務軽減などの措置を取る場合もあります。
再検査を拒否した場合、安全配慮義務の観点から、会社が対応に苦慮するケースもあるため、トラブルを避けるためにも早めに受診することが望ましいです。
- 健康診断で異常が出たのに、再検査を会社側に拒否されたらどうなる?
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原則として、健康診断で「要再検査」の結果が出た場合、会社は労働者の健康管理に配慮する義務があります(労働安全衛生法・労働契約法)。
再検査を拒否するのは会社側のリスク管理の放棄に繋がるため、対応を放置した場合には労働者から是正を求めたり、労基署へ相談する余地もあります。 - 健康診断の再検査を受けるために、会社を休むことはできる?
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再検査が就業時間内である場合、会社側が業務調整のうえ配慮するのが一般的です。ただし、法的には義務ではなく、就業規則・労使協定・会社の判断による部分が大きくなります。
有給を使う、または代休を充てるなど、個別の対応が必要になるため、事前に相談しておくとトラブルを避けられます。
- 健康診断の結果通知はどうなる?会社が隠すことはある?
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健康診断の結果は、会社が把握した後、労働者本人へ通知する義務があります。
原則として、書面または電子的手段で通知されるべきです。通知がない、または内容が不明瞭な場合には、会社に確認しましょう。なお、会社が恣意的に結果を伏せたり、改ざんすることは法令違反にあたります。 - 健康診断の結果によって休職になった。会社の対応としては正しい?
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労働者の健康上の理由で業務継続が困難と判断された場合、医師の意見や産業医の所見に基づき休職させることは適切な対応です。
この場合、就業規則に従い、休職期間・手当(傷病手当金等)・復職の可否などが定められています。納得がいかない場合や、不当な扱いを受けたと感じる場合には、社内の労務窓口または労基署等への相談が可能です。
- 健康診断の結果によって配置換えされた。責任は誰が取る?
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配置換えは、労働者の健康状態と業務内容との適合性を考慮して行われるため、法的には「使用者の裁量権(人事権)」の範囲内です。ただし、それにより賃金や待遇が大きく下がった場合、合理性・説明責任・労使間の合意が重要になります。責任の所在というよりも、「安全配慮義務を果たしたかどうか」がポイントになります。
- 健康診断の再検査・精密検査の費用は誰が払うの?
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原則として、再検査・精密検査にかかる費用は自己負担です。
会社が実施する健康診断(法定健診)の範囲までは、会社が全額負担することが労働安全衛生法により義務付けられています。しかし、その結果を受けて医師が指示する再検査・精密検査は「医療行為」扱いとなるため、健康保険証を使った通常の医療費の自己負担(3割など)となります。
再検査が必要な場合、企業としても本人への通知と再検査受診の勧奨を行うことが望まれます。就業制限が必要なケースでは産業医の意見をもとに配置転換や休職などの措置を検討します。
3. 健康診断の項目内容(どんな検査があるか)
- 健康診断では何を調べるのか?健康診断の内容一覧を知りたい
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一般的な健康診断項目には、身長・体重・視力・聴力・血圧測定・胸部X線・尿検査・血液検査・心電図などが含まれます。(胃の検査<バリウム検査>などが含まれる場合もあります。)
4. 建設業に特有の健康診断対応(現場移動や短期契約など)
- 建設業において、派遣労働者にも健康診断は必要ですか?
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はい、必要です。派遣元(派遣会社)に健康診断の実施義務があります。
労働安全衛生法により、雇入れ時健康診断や定期健康診断は、雇用主(=派遣元)が実施し、費用も負担する義務があります。つまり、派遣労働者であっても、「常時使用する労働者」に該当すれば健康診断を受けさせる必要があります。
- 建設現場ごとに必要な健康診断はありますか?
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はい、現場ごとの作業内容によって「特殊健康診断」が必要になる場合があります。
建設現場では、高所作業や有害物質(アスベスト、塗料、粉じんなど)を扱うことがあるため、次のような特殊健康診断が義務付けられている場合があります。
▶ よくある建設現場の特殊健康診断例
作業内容 必要な健康診断 足場・高所作業(不安定な場所での作業) 高所作業に関する適性確認(※特定業務健康診断に該当) 溶接作業・解体作業 有機溶剤・金属粉じんに関する健康診断 トンネル・シールド作業 酸欠・粉じん健康診断、振動障害健診 夜勤・交代制勤務 深夜業従事者向けの特定業務健康診断(6ヶ月に1回)
建設業では現場ごとに労働条件が異なる場合もあり、転籍や配置換え時に健康診断が必要になるケースがあります。特に特定業務(夜勤・重作業)では6ヶ月以内ごとの定期健診が必要です。新規入場教育や説明時に確認・対応しておくと安心です。
5. 健康診断の実施タイミング・スケジュール管理のコツ
健康診断のタイミング(1年おきなのか、半年(6ヶ月)以内なのか、健康診断を行うタイミングをいつにするか
人事・総務担当者が健康診断の管理や予約を行う際、現場サイドとの調整が必要です。
1年を通して「余裕がありそうな期間」を選ぶのがベストですが、他の建設会社も似たような時期を選んでいることも少なくないため「空き具合」も考慮しておく必要があります。
年度末や繁忙期を避け、余裕をもって医療機関の予約を取りましょう。また、グループ会社や関連会社と合同で実施することでコスト削減や効率化も可能です。
建設業における今後の健康診断対応とリスク
近年、建設業界では以下のような経営環境の変化が見られます。
- 人手不足の深刻化
- 請負工事高の減少
- 材料費の高騰
- 労務費の上昇
- 経営統合や事業縮小の動き
こうした中で、健康診断の費用や時間的な負担を理由に、従業員の配置換えや業務形態の見直しが行われるケースも増えています。
無理に業務を継続せず、事業規模に応じた見直しも必要
適切な人員体制の維持
健康リスクの把握と予防的対策
長期的な安全配慮義務への対応
現場サイドで用意しておくと安心なアイテム
緊急対応用の備品
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- タンカ、松葉杖
- 指サック
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まとめ
建設業では、健康診断の実施が義務であるだけでなく、安全・品質・生産性を支える根幹的な要素です。法律だけでなく、現場の状況や働く人の健康状態に応じて、柔軟かつ適切な対応が求められます。
費用の負担や対応フローを社内で明文化し、トラブルや誤解を未然に防ぐことが重要です。


